「みすゞ刈る信濃の国」

古来より「みすゞ」とは信濃の国を表す枕詞(まくらことば)として親しまれてきました。
その「みすゞ」とはスズタケのこと。さわやかな大気と清冽な川の流れ、ゆたかな自然に抱かれた信濃の国を表しています。
私たちは、その名に寄せて、ゆたかに育まれた自然の風味をそのままに、お届けする菓子作りの心を込めました。

すずたけ(篠竹)

ササの一種。ブナの林下に群生する。
高さ1~3メートル。鞘は往々紫色を帯び平滑。
7月頃まれに茎頂に被針状の小穂を生ずる。
花後実をつけたのち枯れる。スズ。ミスズダケ。

万葉集では次のような歌があります。

久米禅師、石川朗女を娉ひし時の歌五首の中

九六 み薦刈る信濃の真弓吾が引かば
うま人さびて否と言はむかも
禅師(巻二) 大意 み薦を刈る信濃の国の真弓を引くように、私が貴女を誘い引いたなら、淑女らしくして嫌と言うだろうか。
九七 み薦刈る信濃の真弓引かずして
弦著くるわざを知ると言はなくに
朗女(巻二) 大意 み薦を刈る信濃の国の真弓を真剣に引いてもいないのに、弓を引く技術を知っている人だとは言えないでしょう。

この二首にある「み薦」を、江戸時代の国学者の大家である荷田春満(かだのあずままろ)と賀茂真淵(かものまぶち)が「みすゞ」と読んだことから、江戸時代以降広く「みすゞかる」が信濃の国の枕詞として定着しました。

こぼれ話ですが、昭和中期に国文学者である武田祐吉が「み薦」を「みすゞ」と読むのは誤読であり「みこも」と読むのが正しいと提唱し、現在では「みこもかる」の読みが学術的には通説となっています。しかし、「みすゞかる」には古風な美しい響きがあり、万葉の時代を想起させるにふさわしいため、信濃の国の枕詞として現在でも親しまれ続けています。